歯周病の診断と治療のガイドライン 3/3



も く じ

はじめに
・歯周治療の基本 図1(略)
・歯周治療の流れ 図2(略)

● 前々ページで扱っている部分 ●
1.歯周病とは
 1)歯肉炎の特徴
 2)歯周炎の特徴
 3)咬合性外傷の特徴
 4)歯周治療の多様性と再発の危険性
 5)修飾因子のなかでも影響の大きい外傷性咬合        
 6)全身的な修飾因子
 7)歯周病の分類

● 前ページで扱っている部分 ●
2.歯周治療の進め方
 1)歯周治療の基本的考え方
 2)歯周治療の進め方の原則
 3)歯周病の治癒と病状安定

3.歯周病の検査,診断,治療計画の立案
 1)初  診
 2)歯周治療への導入
 3)歯周基本検査1
 4)歯周精密検査1
 5)歯周基本検査1,歯周精密検査1の追加検査
 6)診断と治療計画の法案
 7)歯周基本検査2と3
 8)歯周精密検査2と治療計画の修正
 9)部分的再評価

4.患者の依頼(歯周情報提供)
5.応急処置
6.歯周基本治療
 1)炎症に対する処置
 2)咬合性外傷に対する処置

7.炎症に対する処置
 1)プラークコントロール
 2)スケーリング,スケーリング・ルートプレーニング
 3)歯周ポケット掻爬(盲嚢掻爬)
 4)局所の修飾因子(プラークの除去を困難にする因子)の改善
 5)局所薬物送達療法
 6)保存不可能な歯の抜歯

● このページで扱っている部分 ●
8.咬合性外傷に対する処置                 
 1)咬合詞整と歯冠形態修正
 2)暫間固定
 3)歯周治療用装置
 4)歯冠修復と欠損補綴
 5)ブラキシズム(歯ぎしり)の治療
 6)その他の治療

9.歯周病の指導管理
10.歯周外科手術
 1)歯周ポケット掻爬術
 2)新付着手術
 3)歯肉切除手術
 4)歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)
 5)フラップ手術に付加して行う手術
 6)歯肉歯槽粘膜形成術
 7)歯周組織再生誘導法(GTR)

11.根分岐部病変の治療
12.歯周病患者の補綴処置
13. 高齢者と有病者の歯周治療
 1)高齢者の歯周治療
 2)有病者の歯周治療
 3)在宅医療と歯周治療

14.メインテナンスと治癒判定後の再発予防
 1)メインテナンス
 2)治癒判定後の再発防止

> 以下は略 <
・歯周治療の進め方(具体例1)
・歯周治療の進め方(具体例2)
・歯周治療の進め方(具体例3)
・歯周治療の進め方(具体例4)
・付表歯周病の症状と治療法

8.咬合性外傷に対する処置
咬合治療は,外傷性咬合を除き口腔全体の咬合の安定を図り,歯周病変を改善し歯周炎により低下した歯周組織の機能を回復することを目的としている.外傷性咬合は歯周炎の初発因子ではないが,歯周炎を進行させる重要な修飾因子である.とくに歯周炎が進行すると,ほとんどの症例は炎症による歯の挺出や移動が生じ,咬合性外傷を合併した状態となるので,咬合治療はきわめて重要な意義がある.
咬合治療には次の治療法が含まれる

1)咬合調整と歯冠形態修正
2)暫間固定
3)歯周治療用装置
4)歯冠修復と欠損補綴
5)ブラキシズム(歯ぎしり)の治療
6)その他の治療
1) 咬合調整と歯冠形態修正

咬合調整は,歯を削合することにより外傷性咬合とくに早期接触を取り除き,咬合性外傷を治す治療法である.この目的は,歯周組織の咬合性外傷の改善を第一としているが,さらに顎関節症やブラキシズムの改善,歯冠修復後や矯正治療後の咬合の安定化,食片圧入の改善,歯科矯正治療を障害する早期接触の除去も含まれる.

歯冠形態修正は,歯周組織の支持力が低下し早期接触を除いても生理的な咬合力が咬合性外傷(2次性咬合性外傷)を引き起こす場合に,歯冠を削合して咬合力の負担量を軽減し,2次性咬合性外傷を改善する治療法である.これは早期接触が存在しなくても行うが,咬頭嵌合位の接触部は必ず保存し,側方圧のかかる部分や広い面接触の部分を削合して,咬合力を軽減する.

しかし,一度削合した歯はもとの形態に回復することが困難であるから,咬合状態を検査して患者に説明し,了解を得た後適切な削合を打う必要がある.また,炎症のある歯は炎症の改善とともに正常な位置にもどる傾向があるので,炎症のある状態(ポケットのある歯を含む)で精密な咬合調整を行っても効果が少ない.したがって,炎症がある時には高度の早期接触のみ調整し,炎症が消退した後に精密な調整を行う.
2)暫間固定
暫間固定は咬合性外傷を咬合調整のみでは解消できない場合,歯の動揺が強くみられる場合,歯周組織が破壊されて2次性咬合性外傷を生じやすい場合に行う.

暫間固定は当該歯を周囲の歯と連結することにより,歯周組織に対する咬合圧の分散と安静をはかり,咬合性外傷を改善したり,破壊的応力を避けるために行う.暫間固定は一定期間固定を行って歯周組織の変化を観察する目的で行う.

暫間固定を行う上での注意事項

(1) 術前および術後に咬合調整を十分に行う.
(2) 定期的観察が必要である.とくにプラークコントロール,早期接触の有無に注意する.
(3) 暫間固定装置により局所の口腔清掃が阻害されないようにする.
(4) 定期的な管理が必要である.
3)歯周治療用装置

歯周治療中、欠損歯が存在する症例や抜歯や不良補綴物の除去を行った症例には,とりあえず機能と審美性を回復するために,暫間的な補綴処置を打うことが必要な場合がある.
これらの装置は,歯周治療中の咀嚼障害,審美障害を改善したり,残存歯への咬合力の負担を軽減する目的で作製され,歯周治療用装置と呼ばれ,とくに長期の治療期間が予測される患者については歯周治療を進める上で重要である.

歯周治療用装置の作製時の注意事項
(1) 口腔清掃状態が良好に維持できるような形態に設計する.
(2) 治療用装置を装着している間に,再発の危険のある部位を十分に把握し,最終補綴の設計に反映させる.
(3) 装着後には定則的に装着の調整,リベース,口腔清掃指導などを行う.
(4) 歯冠修復物は歯肉縁上マージンが歯周管理上望ましい,さらに歯冠の過豊隆を避け,歯間ブラシが使用できるよう歯間空隙の形態に注意する.
4)歯冠修復と欠損補綴

歯冠修復と欠損補綴は,歯周病により失われた機能や審美性を回復するうえで重要な役割をする.とくに進行した歯周炎や欠損歯が多い症例では,永久固定や広範囲にわたる補綴物あるいは歯肉エピテーゼなどを必要とする場合もある.これらの処置を行う場合に大切なことは,歯周其本治療をしっかり行い,補綴物の清掃性を良くし,支台歯や鉤歯あるいは他の残根歯に,歯周病を引き起こしたり進行させることがないようにすることである.

とくに炎症と咬合性外傷とが合併して歯周炎が急速に進行することがないように,歯冠修復や欠損補綴を行う前および行った後に,歯周組織の管理を十分に行う必要がある。
5)ブラキシズム(歯ぎしり)の治療

ブラキシズムは,上下の歯の間に食物がない状態で無意識に行われ,強い咬合力が歯に加わるため,歯周組織に咬合性外傷を引き起こす危険性がある.歯周組織の炎症とブラキシズムによる咬合性外傷が合併すると,重度の歯周炎に発展しやすい.

治療の基本は,ブラキシズムの原因と考えられる局所因子(早期接触などの咬合接触の異常)と全身因子(精神的ストレスなど)を取り除くことが基本となる.しかし,ブラキシズムの原因や成り立ちは十分に解明されておらず個人差も大きく,治療が難しいのが現状である.そこでまず原因となる早期接触部のみを削合する小範囲の咬合調整,床副子(歯ぎしりに対する咬合床,バイトガード,ナイトガード,オクルーザルスプリント)の装着を行って経過を観察する.最初から広範囲な咬合調整やオーラルリハビリテーションなどの不可逆的な治療を行うことは避けるべきである.
6)その他の治療

歯の位置異常を修正する歯科矯正治療は,歯周治療の効果を高める.歯列不正による咬合性外傷が明らかな場合や,歯の位置異常によってプラークコントロールが阻害されている場合,適応と言える.しかし,歯科矯正治療が困難な歯列不正もあり,適応症を選んで行う必要がある.なお,歯科矯正治療は保険診療の適応外である.
9.歯周病の指導管理
歯周病の指導管理は,歯周病患者に歯周病の治療およびメインテナンスを成功させるために必要なプラークコントロールを中心とした日常生活上の指導を行い,歯周組織の健康を回復し維持できるよう管理することである.

歯周治療は,長期間に及ぶ患者自身によるプラークコントロールを基本としている.モチベーションの効果は時間とともに低下するほか,歯肉の退縮や形態の異常さらには補綴物の装着などにより,口腔内の状況は刻々変化する.このため健康な人に比ベプラークコントロールを常に良好に保つことは雑しく,ややもすると再び口腔清掃状態が悪化する.

これによってプラークが多量に付着し治療効果は失われ,逆に悪化進行してしまう危険性がある.このため歯周病患者に対しては,口腔清掃指導を中心とした指導管理がきわめて重要であり,患者との信頼関係の確立につとめながら定期的かつ長期にわたり行う必要がある.

指導管理を行う上で重要なことは,まず歯周病に対する正しい知識を持たせ(歯周病はどのような病気であり,その主な原因は何かなどを認識させる),患者自身の病状(進行状態)を説明し情報を提供することである.さらに必要とする治療内容と予後を説明し,治療に同意してもらい,協力を得ることがきわめて大切である.とくにプラークコントロールの重要性を認識させ,ブラッシング法を中心に患者が自分で行うプラークコントロール法を指導し,管理していくことは欠かすことができない.また,治療の進行に応じておきる歯肉や歯の変化を十分説明し,その対応についても適宜説明する必要がある.このほかブラキシズム,舌習癖,口呼吸,喫煙などの増悪因子に対する指導管理や食生活面での指導も大切である.

なお,糖尿病などの全身疾患や薬物の服用など全身性修飾因子を持っている場合は,それらの因子と歯周病との関係について十分説明し,全身性因子の無い人よりもさらにレベルの高いプラークコントロールを行う必要性があることを理解してもらい,徹底したプラークコントロールが行えるよう指導管理することが必要である.また,全身状況についても理解を深め,全身と歯周組繊との因果関係について適切なアドバイスを行う必要がある.
10.歯周外科手術
歯周基本治療を行っても歯周ポケットが残存している場合には,外科手術によって歯周ポケットの除去が必要な場合がある.歯周外科手術を行うには,十分なプラークコントロールが行われ,しかも術後も継続的に行われることが大切である.プラークコントロールが不十分な場合は,歯周外科手術を行うべきではない.

1 歯周外科手術の前に歯周基本治療を十分行い,歯周精密検査2により,再評価し,歯周外科手術適応症であり,しかも外科処置を行うに適切な時期であることを確認することが大切である.
2 患者の全身状態に留意する.
3 手術の目的やおこり得る手術後の経過を説明し,患者の同意を得る.
1)歯周ポケット掻爬術

この手術は,歯周ポケット内壁の炎症病巣とプラーク付着・歯石沈着している根面を徹底的に掻爬,除去し,根面の滑沢化により歯面と歯肉壁面間とに新しい付着をはかり,ポケットを除去させる.歯面と歯肉の適合が十分でなければ縫合やパックを行う.また,ポケットの除去が困難と思われる深いポケットの場合であっても,ポケット底部の炎症を軽減させ,病変がさらに根尖方向に進行するのを防ぎ,病状の安定をはかる目的でも行われる.
この手術法は患者に対し外科的侵襲が少ないので,高齢者や合併症を有する症例にも適応可能である.しかし,高度の熟練が要求されるとともに,ポケット除去効果が不確実である欠点を有している.
2)新付着手術

この手術は,メスを用いたポケット掻爬術の一種である.すなわち,歯肉辺縁からポケット底へ向けて,メスを用いることによってポケット上皮および炎症性結合組織を切除する.
ついで汚染された根面の歯石を除去し,スケーリング・ルートプレーニングで滑沢にする.
歯根と歯肉は緊密に接触するように縫合し新付着をはかる方法である.この手術は,フラップ手術に比べて外科的侵襲が少なく,歯肉の退縮が少ない.また麻酔薬使用量が少なく,手術時間が短縮できる.しかし,歯肉弁を剥離しないために汚染根面の徹底した除去が困難であり、骨縁下ポケットの掻爬が困難である。
3)歯肉切除手術

この手術は,歯周ポケットの減少や除去を目的として歯肉組織の切除を行う方法である。
治癒後の予測がたてやすく,手術が簡単でしかもポケットの除去が確実である。しかし,付着歯肉の喪失,術後の歯頸部知覚過敏症、歯肉退縮などの審美性の問題など術後の臨床上の問題点を有している.
4) 歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)

この手術は,歯肉弁を剥離して直視下で根面のスケーリング・ルートプレーニングを行うとともに内縁上皮と炎症性肉芽組織を除去し,さらに必要に応じて歯肉や骨の形態を整え,歯肉弁を適切な位置に復位させ縫合し,再付着をはかる方法である.この手術は,垂直性骨吸収で骨縁下ポケットが存在している症例、歯槽骨の形態が異常で骨整形または骨切除が必要な症例,根分岐部病変の症例など適応範囲が広い.しかし,各ステップとも精度の高い技術と熟練が要求される.
5)フラップ手術に付加して行う手術

(1)歯槽骨整形術,歯槽骨切除術
フラップ手術がポケットの除去を主目的とするのに対し,この手術により積極的に骨形態の改善をはかるものである.この手術は,歯周の局所においてプラークコントロールを容易とする環境を整える.しかし,アタッチメントロスや歯槽骨の喪失を生じる危険性がある.

(2) 骨および人工骨移植術
この手術は,骨欠損部(とくに垂直性骨欠損)に通常のフラップ手術を行って病変を除去した後,種々の移植材を移植し骨の再生をはかる方法である.種々の移植材が報告されており,各々の特徴を理解して用いる必要がある
6)歯肉歯槽粘膜形成術

歯肉歯槽粘膜部の形態異常に対して,これを外科的手術によって改善し,歯周病の再発防止 プラークコントロールのしやすい口腔内環境を確保するための手術の総称名である。

(1) 小帯切除術
異常に発達した小帯を切除するとともに付着歯肉の幅を増加させるものである。この手術を行うことによってプラークコントロ−ルが十分に行える口腔内環境をつくる。
また,症例によっては義歯の安定を得ることが可能となる.

(2) 歯肉弁側方移動術
歯肉退縮で根面の露出している部位に隣接歯の辺縁歯肉から側方に歯肉弁を移動させて露出根面を修復する方法である.少数歯のみが孤立して根面が露出している歯に用いられる.

(3) 遊離歯肉移植術
供給側より採取した移植片を,付着させる受容側へ移植するものである.この手術は,粘膜面への移植は比較的容易であるが,セメント質が露出している歯根面に対しての移植は困難である.

(4) 歯肉弁根尖側移動術
付着歯肉の幅が狭い場合,または歯周病で深いポケットが存在し,歯肉歯槽粘膜境を越えているような場合,付着歯肉の幅の増加及びポケットの除去を行う処置である.

(5) 歯肉弁歯冠側移動術
歯根面を被覆する方法として用いられ,歯冠側へ歯肉弁を移動させ露出した根面を被覆する処置である.

(6) 口腔前庭拡張術
頬舌側の口腔前庭が浅いために,十分なプラークコントロールが行えない場合や補綴修復物を装着するのに付着歯肉の幅のない場合などに行う.
7)歯周組織再生誘導法(GTR,Guided Tissue Regeneration)

GTRは保護膜(非吸収性や吸収性)を用いて,上皮や歯肉結合組織の根尖側方向への移動を阻止し,歯根膜由来の細胞を歯冠側の根面に誘導し「結合組織性付着」を得る方法である.この手術は,1,2度の根分岐部病変や垂直性骨欠損(2,3壁性骨欠損)などが適応症である.なお,GTR法は高度先進医療である.
11.根分岐部病変の治療
根分岐部病変とは,上顎では大臼歯や小臼歯,下顎では大臼歯の複根歯の根間中隔の歯周組織が破壊される病変である.

根分岐部病変は辺縁歯周組織からの炎症の波及,外傷性咬合,歯内−歯周病変によって生じる.原因や程度あるいは罹患歯の状態によって予後や処置法は様々であるが,辺縁から波及した歯周病変によるものは,その他のものと比べて治療法は複雑であり,予後が一般に不良である.

検査で留意すべきことは,原因の確定と病変の広がりであり,精密なプロービングが欠かせない.X線写真による検査も,場合によっては扁心撮影や造影性を有するものを挿入しての撮影も行われる.病変の進行を促進するエナメルプロジェクションや歯根面の陥凹などにも留意する.

治療方針の決定の際には,ポケットの除去とともに患者がメインテナンス出来るような形態に出来るか,適切な補綴処置が行えるかなどを慎重に考慮する.

治療としては,歯周基本治療や歯周ポケット掻爬術さらには薬物送達療法などを駆使して対応する場合と歯周外科手術を行う場合とがある.後者にはさらに歯根を保存するものと一部の歯根を切断または切除するものとがある.
いずれにしても,綿密な管理が重要である.
12.歯周病患者の補綴処置
口腔機能の回復は,歯周組織の健康の回復とともに,歯周治療の大きな目標の一つであり,歯周病患者の補綴処置(歯冠修復や欠損補綴)は,歯周治療の一環として極めて重要である.とくに歯周炎が重度に進行した症例や欠損はの多い症例では,これらの処置が歯周治療全体の予後を大きく左右する重要な役割を持っている.

歯周病患者の補綴処置を行う場合に,まず考えなければならない基本は,補綴処置により支台歯や他の残存歯に歯周病を引き起こしたり進行させることなく,口腔機能や審美性を回復させることである.不注意に歯周病患者に補綴処置を行うと,支台歯や他の現存歯の歯周組織に炎症が誘発されたり増悪したり咬合性外傷が生じたりする危険性がある.

補綴処置を行うことにより,支台歯や鉤歯は咬合力の負担が増加し,咬合性外傷が生じやすい.したがって,支台歯や鉤歯の歯周組織に炎症(深いポケットなど)があると,炎症と咬合性外傷とが合併して歯周組織の破壊が急速に進行してしまう危険性が高い.このような状態を防ぐためには,歯周基本治療を十分に行うことが大切であり,さらに必要に応じて歯周外科手術などを行って深いポケットなど歯周組織の炎症をできるかぎり改善し,支台歯の咬合力の負担能力を高め,清掃性の良い補綴物を作製することが重要である.

しかし,すべての歯をこのような理想的状態にするのは困難であり,一部にポケットが残存するなど問題を残したまま補綴処置を行わざるを得ない場合もある.このような場合は,補綴処置後の継続した歯周治療やメインテナンスが極めて重要となる.

早期に機能や審美性の回復が必要な場合,永久固定を必要とするかどうか判定が難しい場合,保存か抜歯か迷う場合,ヘミセクションなど根分岐部病変の治療法の決定が難しい場合などには,歯周治療用装置や暫間固定装置などを用いてとりあえず機能や審美性の回復を行う.この間にさらに複雑な歯周治療を進め再評価を行って歯周病患者に適した最柊的な補綴物を作製する場合もある.
13.高齢者と有病者の歯周治療
1)高齢者の歯周治療

高齢者における個体差は極めて大きいが,一般に心肺機能,免疫機能,修復能力は低下しており,心理的な側面も壮年者と比べて大さな違いがある.食生活は高齢者にとって極めて大きな問題であり、高齢者にこそ心のこもった質の高い歯科治療が求められる.

高齢者に対する歯科医療は,高齢になる前の歯科医療の質がどうであったかによって強く影響されることが知られている.つまり,高齢になる前に質の高い歯科医療がされていると,より健康な口腔への期待も大きい.このように高齢者歯科の課題は,突如として高齢者から始まるものではない.この点で生涯を通じての歯科医療の必要性がもっとも象徴的に現れるところであろう.

高齢者に対する歯周治療は,高齢者の一般的な特性,患者の心と全身的な状態,手指の機能の程度などを勘案し,最も適した治療を進めるべきである.70歳代でも,歯槽骨の再生が起きることもまれではない.

患者がフラップ手術など侵襲の強い歯周治療に耐えられないと判断したときには,プラークコントロール,スケーリング,スケーリング・ルートプレーニング,歯周ポケット掻爬(盲嚢掻爬)などを中心とした歯周基本治療を行い,必要に応じてくり返し病変が進行しない状態で維持させる.高齢者には電動歯ブラシの使用も有効である.
2)有病者の歯周治療

いわゆる有病者,すなわち高血圧,脳梗塞、心疾患、糖尿病などを有する患者は高齢者と同様に歯周外科手術が重大な侵襲となることがある.その場合には医科の主治医と事前に十分に相談し,万全の医療体制を整えておくことが重要である.また,一般に治療時間を短くしなければならないことが多い.例えば,歯周膿瘍の頻発が予想されるような歯は,無理に保存して治療期間を長びかせるべきではない.すなわち,歯周治療によるメリットとそれに伴うリスクとを比較検討し,治療の有用性を判断しなければならない.このことは結局有病者の歯周治療を回避することなく行うことが大切であることを意味している.
ときには歯周病が改善するのに伴い,全身状態も改善する症例がある.
3)在宅医療と歯周治療

いわゆる在宅の寝たきり老人の大半は,脳梗塞や心疾患など機能障害を伴う患者である.
長期間寝たきりの状態になると,関節の拘縮,筋の萎縮や痴呆などが起こり,思考力や運動能力が著しく低下する.そのため,口腔内の健康を維持する上で最も重要なブラッシングが十分に行えず,口腔内は不潔になりやすく,う蝕や歯周病が進行し重症化しやすい.
その結果,歯痛や歯冠崩壊,歯周膿瘍など口腔疾患に悩み,摂食が障害されることが多い.
また寝たきりになると通院は極めて難しく,在宅医療を受けることになる.したがって,在宅医療ではう蝕と歯周病の予防と治療に留意し,行いうる範囲でプラークコンロールとスケーリング・ルートプレーニングなどを行う.

しかし,重要なのは歯科医師自ら,あるいは歯科医師の指示のもと歯科衛生士が適切な口腔清掃指導を行うことである.本人が口腔清掃に対する理解や実施が困難な場合には,介護者に患者の歯周組織の状態をよく説明し指導を行う.しかしながら,介護者にすべてを任せることは望ましくなく,ブラッシングをリハビリテーションの一環と考え,可能な限り患者自身に実践させることが望ましい.これに際して,患者が手指の障害のため歯ブラシをうまく握れないときには,患者が使用しやすいように柄の部分の形態を工夫したり,電動歯ブラシを使用する方法がある.いずれにしても,在宅医療における歯周治療をより効果的に行うためには,歯科医師,医師,保健婦、歯科衛生士,患者,介護者の連携が不可欠である.
14.メインテナンスと治癒判定後の再発予防
1)メインテナンス

メインテナンスとは,歯周精密検査3の結果病状安定と判定された場合に,病状の安定を維持するための定期的な治療である.

症状や患者の口腔清掃状態で異なるが,一般的には3カ月ごとのリコール来院が望まれている.ただし,患者の口腔衛生状態や病状によってリコールの間隔は適宜増減する.例えば,最初は1ヵ月ごとに来院させ,その後は病状に応じて3ヵ月,さらに6ヵ月となることもある.

メインテナンス時の検査は,歯周基本検査または歯周精密検査に準ずるものとする.メインテナンス時の治療は検査の結果をもとに必要な処置を決めて行う.プラークコントロールの強化,スケーリング,スケーリング・ルートプレーニング,歯周ポケット掻爬(盲嚢掻爬)などのほか,場合によって歯周ポケット掻爬術など歯周外科手術を行うこともある.
また,補綴物の調整が必要となる場合もある.
2)治癒判定後の再発防止

歯周病は再発しやすい疾患であり,治癒判定後の再発防止を徹底することが大切である.
歯周病はプラークを直接的な原因因子とする炎症性疾患であり,歯周治療により得られた治癒すなわち歯周組織の健康を保持,再発を防ぐためには患者が健康管理を行うことが大切である.このことはとりも直さず口腔衛生指導を徹底し,患者自身が毎日プラークを除去することが最も重要である.歯科医師は歯周治療が終了し,歯周病が治癒と判定した時に再び歯周病の原因について患者に十分説明し,プラークコントロールにおけるセルフケアの重要性を理解させ,毎日実行するよう十分にモチベーションを行う必要がある.


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