この度、札幌歯科医師会の広報でも、アスピリン喘息の話題が出ていましたので、私の手元にある資料を公開します。 最近の事例として、94年5月に、ロキソプロフェン製剤を処方された31歳男性が喘息発作で死亡したケースが報告されています。 なお、このページに関しては、著作権の問題がありますので、1ヶ月程度後に、内容を抜粋のみに変更いたします。 気管支喘息患者に対する解熱鎮痛剤投与 日本医事新報/95年7月より <問> 喘息患者にジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)を使用し、重篤な症状になった後、解熱剤はすべて使用できなくなったとも聞いたが、その通りか。チアプロフェン酸(スルガム)、メフェナム酸(ポンタール)等も使ってはならないのか。喘息患者でも症状の出ていない場合は如何か。 <答> 喘息患者に解熱鎮痛剤を投与する際にはアスピリン喘息(aspirin-induced asthma:AIA)でないことを確認する必要がある。AIAはアスピリンをはじめとする酸性非ステロイド系抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAID)により喘息発作が生じる喘息であり、酸性NSAID以外にも食品・医療品添加物や自然界の植物に含まれているサリチル酸化合物でも発作の誘発あるいは憎悪が認められる(表1)。 AIAは成人喘息の薬10%を占め、発症のピークは30歳代である。性別は3対2で女性に多い。通常は通年性の鼻炎症状で発症し、慢性副鼻腔炎や鼻茸を高頻度に合併する。2〜3年後に気管支喘息を発症してくることが多く、感冒様症状等で酸性NSAIDを投与されると、薬時間後より鼻汁・鼻閉等の鼻症状が出現し、激しい発作が起こる。重症難治性でステロイド依存性である例が多い。明らかな誘発物質の摂取がなくても喘息発作が認められ、酸性NSAIDによる発作誘発歴が確認できないような例も多い。 AIAの診断は臨床像(中高年発症の難治性喘息で鼻症状合併)から疑うことより始まり、酸性NSAIDの負荷試験によって確診する。酸性NSAIDの内服歴がありながら発作誘発がなく、負荷試験でAIAと判明する例があり、注意を要する。1)負荷試験の詳細は他書に譲るが2)、危険を伴うため専門医に依頼すべきである。 喘息患者でAIAの可能性が否定できない場合は喘息発作の有無にかかわらず酸性NSAID(ジクロフェナクナトリウム、チアプロフェン酸、メフェナム酸)の投与は避けべきである。喘息患者が感冒等の熱発した場合、AIAが否定できていなければ、原則的には冷却法で対処する。冷却法が無効で、どうしても解熱させたい場合には抗生剤併用下に短期間の経口ステロイド剤投与を行う。 実際には喘息患者は気道感染併発時に発作の憎悪を伴うことが多く、ステロイド剤投与は解熱、発作緩解の両面から有用であるが、感染憎悪には十分な注意が必要である。またAIAではコハク酸エステル型の静注用ステロイド剤によって発作の誘発、憎悪がみられるため、ステロイド剤静脈内投与時にはリン酸エステル型を用いるべきである3)。塩酸チアラミド(ソランタール)等の塩基性NSAIDの投与は可能であるが、解熱鎮痛効果はあまり強くない。 アスピリン喘息患者に対する解熱鎮痛剤の使用法 <問> アスピリン喘息患者に対しては、ポンタール、ブルフェンなど多くの鎮痛解熱剤が投与禁忌になっているが、頭痛、高熱などに際して、鎮痛解熱剤の投与がどうしても必要な場合、どのような薬剤を選択し、治療すればよいか、小児および成人それぞれについて。 <答> アスピリン喘息とは、アスピリンをはじめとする種々の酸性非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inlammatory drugs:NSAID)の投与により喘息発作が惹起される病態である。喘息患者における本症の合併頻度は報告によりばらつきがあるが、成人では10%前後であり、小児については一般に稀であるとされるが、成人と同程度にみられるとの報告もある。 アスピリン喘息の発症機序については不明な点が多いが、アラキドン酸代謝系において、ララキドン酸から種々のプロスタグランジンを合成する最初の酵素であるシクロオキシゲナーゼの活性が阻害されることが本症の機序の第一ステップと考えられている。したがって、プロスタグランジン合成抑制により抗炎症・解熱鎮痛作用を発揮するとされる酸性NSAIDのすべてがアスピリン喘息患者に対して使用禁忌となる。 慢性関節リウマチや運動器疾患など一部の疾患を除けば、鎮痛解熱剤はそのほとんどが様々な疾患に随伴する発熱や疼痛に対し対症療法的に使用される場合が多い。したがってアスピリン喘息患者が頭痛や発熱を訴えた場合、まず原疾患の診断に務め、感染症であれば適切な抗生物質を早期に投与するというように、その原因に対する治療を優先し、加えて氷枕による冷却法を組み合わせるなどの処置を行う。 しかし、高熱や頭痛の訴えが強い場合、さらに歯科領域の疼痛、術後や外傷性疼痛、月経痛などに対して解熱剤を投与したい場合は、塩基性NSAIDやアニリン系のNSAIDが比較的安全に使用できるが、その効果は酸性NSAIDより弱いとされている。ただし、アセトアミノフェンは大量投与により発作が誘発されるとの報告もあり注意を要する。小児に対するこれらの薬剤の選択法も、原則として成人の場合と同様に考えてよいと思われる。 その他、偏頭痛発作には酒石酸エルゴタミンが適応であり、筋収縮性頭痛には筋弛緩剤やマイナー・トランキライザーを、癌性疼痛などの著しい痛みに対しては、ペンタゾシンやモルヒネ等のオピオイドの使用を考慮する。リウマチや運動器疾患では物理療法の併用も有用である。しかし諸般の事情でどうしても酸性NSAIDを用いたい場合、NSAIDによる脱感作も可能であるが、本邦では一般には行われていない。 一部のアスピリン喘息患者では、種々の医薬品や食品添加物に対しても過敏性を示すことが指摘されており、薬剤の使用は最小限に控えるほうがよい。また、注射用ステロイド剤に使われるコハク酸エステルにより発作が誘発されることもあり、急速静注は避ける。さらに酸性NSAIDを含有する軟膏や湿布薬でも発作を起こしうるため注意が必要である。 アスピリン喘息の診断には、NSAID投与による発作誘発の既往の有無についての詳細な問診が重要であるが、問診だけでは診断しえない症例も多く存在する。このような症例に対してはNSAIDの負荷試験による診断も可能であるが、実地医家には適さない。しかし、本症は難治性喘息患者に多くみられ、慢性副鼻炎や鼻茸、副鼻腔炎を高率に合併するとされており、したがってこのような患者ではアスピリン喘息の存在を疑い、安易に酸性NSAIDを投与しないことが肝要である。
表2 非ステロイド系抗炎症剤
<注:一般名と商品名の対応(一部のみ、記載> イブプロフェン(ブルフェン) ジクロフェナク(ボルタレン) ロキソプロフェン(ロキソニン) メフェナム酸(ポンタール) |
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